辞典の魅力!【じてん・の・みりょく・!】
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デジタル時代でも英語紙辞書の「寄り道」を楽しむ
“Do I sound cantankerous?” 映画を見ていると、女性が男性にこんなセリフを言ってい ます。初耳の cantankerous とはどういう意味だろうと、紙辞書に手を伸ばします。ページをめくると「文句の多い;付き合いにくい」だと教えてくれます。「私ってグチが多くて、付き合いにくいですか?」ということのようです。この語の下に canteen という語があります。「[主に英](工場・学校などの)食堂、社員食堂」とあります。すっかり忘れていましたが、イギリスの英会話学校に行った際、食堂の入り口に cafe や restaurantではなく“CANTEEN”と書いてあったのを思い出しました。これで納得です。
ふと、同ページの左段を見ると、canoe が見えます。「カヌー」のことですが、「アクセント注意」と注記され、「カヌー」ではなく、「カヌー」(実際には発音記号)だと教えてくれます。あれ、ひょっとすると授業で間違って発音していたかもしれないぞと、少々焦ります。加えて、そこにある paddle a canoe(カヌーをこぐ)というコロケーション(=語と語の慣用的なつながり)も目に入ります。多分、とっさには出ない表現です。脳科学では、情報が感情やちょっとした出来事と結び付けられると、短期記憶から長期記憶に固定されることを教えてくれます。紙辞書を使いながら上記のような「寄り道」をすると、確かに頭の中で知識が整理されたような気分になります。
もちろん、電子辞書も便利です。We must address the problem.という文を見て、「問題の住所」ではおかしいと思ったら、「用例検索」を使って「address & problem」と入力してみます。すると、即座に「問題に取り組む」だと教えてくれます。それでも、紙辞書を積み上げて使っているのは、広い視野角で単語の「寄り道」を楽しんでいるからです。デジタルとは一味違った「寄り道」の楽しい作業が記憶に残ります。
2021年3月29日
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磐崎弘貞
筑波大学教授。 『ニューホライズン英和辞典 第9版』,『ニューホライズン和英辞典 第6版』編集委員(東京書籍)。著書『英語辞書をフル活用する7つの鉄則』(大修館書店)など。趣味はイギリスでのドライブ。